東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)50号 判決
原告
田村平作
原告
山本春海
原告
池内百合子
右三名訴訟代理人弁護士
岡村親宜
右訴訟復代理人弁護士
望月浩一郎
被告
武蔵野市長
土屋正忠
右指定代理人
天野巡一
被告
武蔵野三鷹地区
保健衛生組合管理者
坂本貞雄
右指定代理人
青野進
外一名
被告
坂本貞雄
右被告三名訴訟代理人弁護士
中村護
同
三浦喜代治
同
関戸勉
同
町田正男
同
伊東正勝
同
林千春
同
池田利子
右中村護訴訟復代理人弁護士
古川史高
同
安井規雄
同
橋本幸一
主文
1 原告らの被告武蔵野三鷹地区保健衛生組合管理者及び被告武蔵野市長に対する訴えをいずれも却下する。
2 原告らの被告坂本貞雄に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告武蔵野三鷹地区保健衛生組合管理者が武蔵野市緑町三丁目六番五号に「武蔵野三鷹地区保健衛生組合第二処理場」(以下「本件処理場」という。)を設置、管理している行為を取り消す。
2 被告武蔵野三鷹地区保健衛生組合管理者は、本件処理場の管理運営のために、武蔵野三鷹地区保健衛生組合の公金の支出負担行為及び支出命令をしてはならない。
3 被告武蔵野市長は、本件処理場の管理運営のために、武蔵野市の公金の支出負担行為及び支出命令をしてはならない。
4 被告坂本貞雄は、武蔵野三鷹地区保健衛生組合に対し、金一四一〇万円及びこれに対する昭和五七年五月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告らは武蔵野市の住民である。
(二) 武蔵野三鷹地区保健衛生組合(以下「武三保組合」という。)は、武蔵野市及び三鷹市の「伝染病院並びにじんかい焼却場の建設及び経営に関する事務を共同で処理する」目的で、昭和三〇年一月特別地方公共団体として許可のうえ設立された法人であり、武蔵野市及び三鷹市をもつて組織されている。
(三) 被告坂本貞雄は、武三保組合の管理者である。
2 事実経過
(一) 武三保組合は、武蔵野市及び三鷹市両市の住民より発生したじんかいを処理するため、三鷹市新川一丁目六番一号に「武蔵野三鷹地区保健衛生組合立塵芥処理場」(以下「第一処理場」という。)を設置し、昭和三二年一一月一八日から事業を開始し、発生したじんかいを処理していた。
(二) 武三保組合は、新たにじんかいを処理するための施設として武蔵野市緑町三丁目六番五号に本件処理場の設置を計画し、被告坂本貞雄は、武三保組合管理者として本件処理場設置のため、
(1) 昭和五六年九月一〇日、大成基礎設計株式会社と同地の測量及び地質調査の契約をし、同年一二月二三日金四三〇万円を同社に支払つた。
(2) 同年九月八日、パシフィックコンサルタンツ株式会社と環響影響評価調査の契約をし、同年一二月二五日中間金として金九八〇万円を同社に支払つた。
(三) 本件処理場は、昭和五九年九月末日完成して設置され、以来、被告武三保組合管理者がこれを管理運営している。
(四) 武三保組合は、今後も本件処理場の管理運営のために公金を支出することを予定しており、武蔵野市もその公金を本件処理場の管理運営のために同組合に支出することを予定している。
3 本件処理場の設置及び管理運営の違法性
(一) 武三保組合規約三条、地方自治法(以下単に「法」という。)二条一三項、法二八四条、法二八六条一項違反
(1) 武三保組合は、武蔵野市と三鷹市によつて法二八四条に基づき両市により組織された「事務の一部を共同処理するため、その協議により規約を定め」た組合である。
(2) 同規約三条は、「組合の共同処理する事務」として「伝染病院並びにじんかい焼却場の建設及び経営に関する事務」を掲げている。
(3) 本件処理場は、武蔵野市で発生するじんかいはすべて本件処理場で単独処理することを目的とし、その結果、三鷹市で発生したじんかいはすべて第一処理場で単独処理することになる。
(4) したがつて、本件処理場は、武蔵野市及び三鷹市で発生したじんかいを何ら「共同処理」するものではなく、その設置は同規約三条に違反するとともに、標記の法の各条に違反し、その管理運営も右同様に違法である。
(二) 法二四四条の二第一項違反
(1) 本件処理場は、法二四四条一項の公の施設である。
(2) すなわち、法二条三項六号で、地方公共団体の固有の事務として、病院などとともに「じんかい処理場……を設置若しくは管理し、又はこれらを使用する権利を規制すること。」を掲げているところ、これは、じんかい処理場につき当然にその構成員である住民がこれを使用する権利を有していることを認め、その規制事務を地方公共団体の事務と明示しているものというべきである。したがつて、じんかい処理場について、住民は、その使用権(利用権)を固有の権利として有するものということができる。そして、じんかいの収集事務は、地方公共団体のサービス事務として行われているものに過ぎず、右の収集事務が地方公共団体により行われているからといつて、住民がじんかい処理場を使用(利用)しているという法律関係にかわりはないのである。現に、収集されないじんかいについて、武蔵野市は、住民が清掃課に連絡すれば一キログラム当たり一八円で収集することとしているから、住民は、誰でも、いつでも、武三保組合の焼却施設を利用できるのである。
そうすると、じんかい処理場は公の施設というべきである。
(3) しかし、本件処理場の設置及びその管理に関する事項を定めた条例はない。
(4) したがつて、本件処理場の設置及び管理は法二四四条の二第一項に違反する。
(三) 武三保組合立塵芥処理場設置に関する条例(昭和三二年武三保組合条例第五号。以下「じんかい処理場設置条例」という。)違反
(1) じんかい処理場設置条例は、武三保組合の共同処理事務であるじんかい処理場の設置場所について、「三鷹市新川一丁目六番一号」(第一処理場の地番)と定めている。
(2) したがつて、仮に本件処理場の設置を定めた条例が右条例であるとしても、武三保組合が「じんかい焼却場の建設及び経営に関する事務」を第一処理場のみで行わず、本件処理場で行うことは、右条例に違反する。
(四) 法九六条一項一号違反
(1) 本件処理場の設置をすることについては、武三保組合の議会において、じんかい処理場設置条例を改正する議決はなかつた。
(2) 仮に武三保組合の議会の議員の全員協議会の基本方針の了承なるものがあつたとしても、これによつて、じんかい処理場設置条例の改正と同視することはできない。
(3) したがつて、本件処理場の設定及び管理については、法九六条一項一号の違反がある。
(五) 裁量権の濫用
(1) 武蔵野市及び三鷹市のじんかい処理は、第一処理場の改修により十分に可能であつた。本件処理場の設置は、第一処理場でじんかいが処理できなくなつたためではなく、武蔵野市長が第一処理場の改修建設を提案したにもかかわらず、三鷹市長がこれを拒否し、三鷹市への武蔵野市のじんかいの搬入を拒否する態度を取つたため、両市長の合意の上、各市で単独処理をするために本件処理場が設置されたものである。
(2) したがつて、本件処理場の設置は本来は不必要なものであり、その設置は裁量権の濫用として違法であり、設置された本件処理場を管理運営することも右同様に違法である。
4 本件処理場の設置、管理行為の取消し
(一) 処分性
住民訴訟は、財務会計行政の管理、運営についての住民による直接的民主的統制のための制度であるところ、財務会計行政にかかわる行政庁の行為は、一見処分性が希薄なものであるかのようにみえても、財政コントロールの点から一定の処分を前提としたり、処分と間接的には関連させられているものが多いのであるから、法二四二条の二第一項二号の「行政処分」は、行政行為及びこれに準じる性質をもつ公権力の行使に当たる行為に限定されるべきではなく、いわゆる内部的手続、私法契約、事実行為から成る複合的行政過程全体についても、同号の行政処分に当たると解するべきである。このような観点からみるときは、被告武三保組合管理者の本件処理場の設置、管理行為も、同号の行政処分に該当する。
(二) よつて、原告らは、右2(三)の事実に基づき、法二四二条の二第一項二号により、被告武三保組合管理者に対し、本件処理場の設置、管理行為の取消しを求める。
5 本件処理場の管理運営のための公金支出の差止め
(一) 請求の特定について
本件処理場の管理運営のための行為としては多数の行為が伴うが、その個別的具体的な財務会計上の行為を特定しなくても、基本となる管理運営自体から個々の差止請求の対象となる具体的行為が判別できるから、請求の特定として欠けることはない。
(二) 武三保組合の公金の支出手続について
武三保組合規約一四条、法二三二条の四により、武三保組合における本件処理場に関する費用の支出負担行為及び支払命令を含む支出権限は、被告武三保組合管理者にある。
(三) 武蔵野市の公金の支出手続について
(1) 支出負担行為
① 武蔵野市予算事務規則一九条、武蔵野市支出負担手続規則三条、武蔵野市事務専決規定二条、五条、武蔵野市事務分掌規定によると、武蔵野市における本件処理場関係の負担金の支出決定は、企画部長及び財政課長と合議のうえ(ただし、一回の支出額が一〇〇〇万円を超えるものは収入役とも合議を要する。)、環境部長の専決権限とされている。
② しかし、武蔵野市事務専決規定三条では、専決権限の例外として「法令の解釈上疑義もしくは有力なる異説のあるもの」、「紛議論争のあるものまたは処理の結果紛議論争を生ずると思われるもの」については、市長の決裁が必要であると規定されている。
③ 本件処理場に関しては、昭和五七年以降本件訴訟が継続しているのであるから、本件処理場の管理運営費用の支出負担行為決定権限は、右②の規定により被告武蔵野市長にある。
(2) 支出命令
法二三二条の四により、支出命令に関する権限は、原則として市長にあり本件処理場に関する費用の支出命令の権限も、被告武蔵野市長にある。
(四) 公金支出の違法性について
住民訴訟の対象である財務会計上の行為が違法となるのは、単にそれ自体が直接法令に違反する場合だけではなく、その原因となる行為が法令に違反し許されない場合も含まれると解するべきである。本件処理場の管理運営のための武三保組合及び武蔵野市の公金の支出は、本件処理場の設置及び管理を直接の原因としているものであるから、右設置及び管理が違法である以上、右公金の支出も違法となることは明らかである。
(五) よつて、原告らは、右2(四)の事実に基づき、法二四二条の二第一項一号により、武三保組合については、被告武三保組合管理者に対して、武蔵野市については、被告武蔵野市長に対して、それぞれ本件処理場の管理運営のための公金の支出負担行為及び支出命令をしないことを求める。
6 損害賠償請求
(一) 被告坂本貞雄は、右2(二)(1)、(2)のとおり、契約の締結及び武三保組合の公金の支出行為をしたが、それらが違法であることを知つていたか、少なくとも違法であることを認識することができた。
(二) よつて、原告らは、被告坂本貞雄に対し、法二四二条の二第一項四号により武三保組合に代位して、損害賠償金一四一〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五七年五月七日(本件訴状送達の翌日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を武三保組合に支払うことを求める。
7 監査請求の前置
(一) 原告らは、昭和五七年二月一日、本件処理場の建設のための公金の支出の差止め及び既に支出された公金の補填を求めて、武三保組合及び武蔵野市の各監査委員に対し、法二四二条一項に基づく監査請求をしたが、右各監査請求がいずれも棄却され、武三保組合については同年三月三〇日、武蔵野市については同年四月二日に原告らに対し、その通知がされた。
(二) 右監査請求は、本件処理場の設置が違法であるとして、そのための公金の支出の差止め等を求めたものであるが、本件訴訟提起後、本件処理場の建設が完了したことに伴い、本件処理場の管理運営のための公金の支出の差止めを請求しているものであるところ、この請求は、右管理運営固有の支出手続の違法ないし右管理運営固有の違法を理由とするものではなく、管理運営の前提である本件処理場の設置の違法を理由とするものであるから、本件における住民訴訟の対象と監査請求の対象とは、実質的に全く同一である。したがつて、原告らは、本件処理場の管理運営のための公金の支出の差止請求につき、適法に監査請求を前置しているものというべきである。
二 請求原因に対する認否及び被告らの主張
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3(一)について
(一) (1)、(2)の事実は認める。(3)の事実は否認する。(4)は争う。
(二) 武三保組合の目的は、第一処理場で武蔵野市及び三鷹市のじんかいを共同処理することではなく、両市のじんかいを処理するための焼却場の建設及び経営を共同処理することにある。
3 同3(二)について
(一) (1)の事実は否認する。(2)は争う。(3)の事実は認める。(4)は争う。
(二) 本件処理場は、生ごみなどのじんかいを焼却する施設であつて、武蔵野市及び三鷹市が収集したじんかいを焼却するものであって、両市の住民の直接の利用が予定されているものではない。したがつて、本件処理場は公の施設には該当しないものであるから、本件処理場の設置につき条例の制定は必要がない。
4 同3(三)について
(一) (1)の事実は認める。(2)は争う。
(二) じんかい処理場設置条例は、昭和三二年当時の法二一三条によるものであるが、同条一項は、「……営造物の設置及び管理に関する事項は条例で定めなければならない。」とされていたころ、第一処理場が右営造物に該当するために右設置条例を制定したものである。しかし、現行法は、旧規定の改正により、法二四四条の二となり、「公の施設」の概念を取り入れたため、じんかい処理場についての設置条例は不用となつたものである。
なお、本件処理場の基本的な計画は武三保組合の議会に対する報告案件であるところ、武三保組合管理者は、武三保組合の議会の議員全員協議会において基本方針を明らかにし、その了承を受けている。
5 同3(四)について
(1)の事実は認める。(2)、(3)は争う。
6 同3(五)について
(一) (1)の事実は否認する。(2)は争う。
(二) 第一処理場は昭和三三年九月から焼却業務を開始し、その後、一ないし三号炉を建設してじんかいの処理にあたつてきたが、各炉は老朽化が著しく、また、付近住民との協定もあり、その処理状況は、合計一日当たり二〇〇トンであつた。一方、じんかいの増大は著しく、じんかいの処理量は、昭和五四年度は一日当たり一九四・三四トン、昭和五五年度は一日当たり一八九・〇八トン、昭和五六年度は一日当たり一九八・五〇トンであり、将来のじんかい量の増大を見通すとともに、旧来の第一処理場の維持修繕費の増大をも考慮すると、新炉を建設した方が財政的にも有利であつた。
7 同4について(被告武三保組合管理者)
(一) 本案前の主張
(1) 本件処理場の設置、管理行為は事実行為であつて公権力の行使に当たる行為ではないから、法二四二条の二第一項二号の「行政処分」ではなく、その取消しを求める訴えは不適法である。
(2) 本件処理場の設置、管理行為は住民訴訟の対象である財務会計上の行為に該当しないから、その取消しを求める訴えは不適法である。
(二) 本案の主張
同4(二)は争う。仮に、本件処理場の建設のための公金支出が違法であつても、それによつて完成した本件処理場の設置、管理行為が違法となるものではない。
8 同5について(被告武三保組合管理者及び被告武蔵野市長)
(一) 本案前の主張
(1) 本件処理場の管理運営のための公金の支出負担行為、支出命令の差止めの訴えは、差止請求の対象である「当該行為」(法二四二条、二四二条の二第一項一号)の具体的特定を欠くものであつて、不適法である。
(2) また、右「当該行為」がなされることが相当の確実さをもつて予測されるものでもなく(法二四二条一項)、当該地方公共団体に回復困難な損害を生ずるおそれがあるものでもない(法二四二条の二第一項)から、右差止請求は訴えの利益を欠くものであつて、不適法である。
(二) 認否
同5(二)の事実は認める。(三)(1)①、②の事実は認め、③は争い、(2)の事実は認める。(四)、(五)は争う。
(三) 本案についての主張
右差止請求は、公金の支出負担行為、支出命令に関し、その固有の違法すなわち財務会計法規の違反を内容とするものではなく、これに先立つ本件処理場の設置及び管理の違法を理由とするものである。そして、右設置及び管理は、財務的処理を目的とする財務会計上の行為とはいえないものである。ところで、一般に先行行為が非財務会計上の行為である場合には、その違法性は原則として後の財務会計上の行為に承継されないと解すべきである。仮に、先行行為の違法性が後の財務会計上の行為に承継されることがあるとしても、それは先行行為の瑕疵が重大かつ明白で明らかに無効と認められる場合に限られるものと解するべきである。
これを本件について考えると、本件処理場は既に建設されて嫁働し、営造物の行政目的に供用されているものであるが、右施設の設置に重大かつ明白な瑕疵が存し、そのためその存在自体が否定され、直ちに廃止ないし取り壊されるべき状況が存するとはいえないのであるから、結局、本件処理場の設置及び管理の違法性は、公金の支出について承継されないものである。
9 同6について(被告坂本貞雄)
(一) 同6(一)の事実は否認する。(二)は争う。
(二) 被告坂本貞雄は、武三保組合管理者として原告ら主張の用地の測量及び地質調査の契約及び環境影響評価調査の契約をし、それぞれ契約代金を支払つたが、いずれも契約の相手方より右代金に相当する役務等反対給付を受けており、しかも右調査等の結果は武三保組合に有用なものであつたから、これにより同組合には何ら損害は発生していない。
10 同7について
(一) (一)の事実は認める。(二)は争う。
(二) 原告らは、請求の趣旨1ないし3の訴えにつきいずれも監査請求を経ていないものである。
第三 証拠〈省略〉
理由
一原告らの被告武三保組合管理者に対する本件処理場の設置、管理行為の取消を求める訴えについて
法二四二条の二第一項二号の取消しの対象となる行政処分とは、行政庁が優越的な地位に基づき公権力の発動として行う行為であつて、住民の権利又は法律上の利益に影響を及ぼすようなものをいうと解するのが相当である。
原告らは、内部的手続、私法契約、事実行為から成る複合的行政過程全体についても行政処分に当たると解するべきだと主張するが、個々の行為それ自体が右に述べたような行政処分に当たらなくても、それらを合わせて全体として捉えればこれを行政処分と観念し得る場合があるとする見解は当裁判所の採用しないところであり、右主張は失当である。
そこで、原告らが取消しを求める本件処理場の設置、管理行為について考えるに、右行為は、要するに本件処理場が存続しそれが機能するための一切の行為を指するものと解されるが、これらの行為は、いずれも非権力的な行為であつて、公権力の発動として行われる行為といい難いものであることは明らかである。
したがつて、本件処理場の設置、管理行為は、前示取消しの対象となる行政処分に当たらず、原告らの右訴えは不適法というほかない。
二原告らの被告武三保組合管理者及び被告武蔵野市長に対する本件処理場の管理運営のための公金の支出負担行為及び支出命令の差止めを求める訴え(以下二において「本項の訴え」という。)について
本項の訴えにつき、監査請求が前置されているか否かについて判断する。
請求原因7(一)のとおり、原告らが本件処理場の建設、設置のための公金の支出の差止め及び既に支出された公金の補填を求めて、武三保組合及び武蔵野市の各監査委員に対し監査請求をしたが、右各監査請求がいずれも棄却され、原告らにそれぞれその旨の通知がされたことは当事者間に争いがなく、原告らが請求の趣旨4の訴えに被告武三保組合管理者及び被告武蔵野市長に対する本件処理場の建設のための公金の支出の差止めを求める訴えを併合して本件訴訟を提起したこと、原告らは、その後本件処理場の建設が完了したことを理由に、右の公金の支出の差止めの訴えを、請求の趣旨1の訴え及び本項の訴えに交換的に変更し、現在、請求の趣旨1、4の訴えとともに本項の訴え(請求の趣旨2、3の訴え)を維持していることは本件記録上明らかである。
ところで、住民訴訟とその提起の適法要件として前置されるべき監査請求とは、その対象において同一性があることを要し、監査請求の対象と同一性のない対象につき提起された住民訴訟は、監査請求の前置を欠くものとして不適法であると解するのが相当である。
本件についてこれを見るに、本件の監査請求の対象は、前示のとおり、本件処理場の建設、設置のための公金の支出に関するものであり、これに対し、本項の訴えの対象は、本件処理場の管理運営のための公金の支出に関するものであるところ、右の両対象は、公金の支出(支出負担行為、支出命令等)の面においても、その目的である行為の面においても、全く別のものであるし、また、両者は互に独立性を有するものであつて、後者が前者に当然に附随し、それがため実質的に見ると、後者が前者に包摂されるという関係にないことも明らかである。そうすると、右の両対象が、形式的にはもとより、実質的に見ても同一性があるものと解することはできない。
この点に関し、原告は、本項の訴えは、本件処理場の管理運営についての固有の違法をいうものではなく、それに先行する本件処理場の設置についての違法を理由とするものであるから、本項の訴えの対象と本件の監査請求の対象とは、実質的に同一であると解すべきである旨主張するが、本項の訴えを支える理由が偶々本件の監査請求の対象についての違法を理由とするということだけでは、前示の判断を左右するに足りず、右主張は採り難い。
したがつて、本項の訴えを提起するには、本件処理場の管理運営のための公金の支出に関し、改めて監査請求を経るべきものであつて、それを経ずにされた本項の訴えは、監査請求の前置を欠くものとして不適法と解さざるを得ない。
三原告らの被告坂本貞雄に対する損害賠償請求について
1 請求原因1、2(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。
2 原告は、被告坂本貞雄がした右の武三保組合と大成基礎設計株式会社及びパシフィックコンサルタンツ株式会社との各契約の締結並びに武三保組合の各公金の支出を捉えて、これらの各行為が違法であるとし、その違法とする理由として、請求原因3(一)ないし(五)の事由を挙げていると解されるので、以下右事由につき順次判断する。
(一) 請求原因3(一)の主張について
請求原因3(一)(1)、(2)の事実は当事者間に争いがない。
原告らは、本件処理場は武蔵野市で発生するじんかいを単独処理することを目的とするものであつて、その結果、三鷹市で発生したじんかいは第一処理場で単独処理することになり、武三保組合組合規約三条等に反する旨主張し、その趣旨は、被告坂本貞雄の前示の各行為が右のことを目的とするものであるから違法であるというにあると解される。
しかし、武三保組合が武蔵野市及び三鷹市の住民より発生したじんかいを処理するために三鷹市内に第一処理場を設置し、じんかいを処理していたことは、前示のとおりであるところ、第一処理場に加えて、更に武蔵野市及び三鷹市で共同して、武蔵野市内に本件処理場を設置すること自体は、右規約三条に副うものと考えられるし、また、本件処理場を設置した後において、武蔵野市で発生したじんかいを本件処理場で、三鷹市で発生したじんかいを第一処理場で処理することとしても、そのことは、じんかいの処理方法に関する問題に過ぎず、右規約三条の「じんかい焼却場の建設及び経営に関する事務を共同処理する」との規定と相容れないものとは考えられないから、本件処理場の設置及び管理運営が右規約三条に違反するものとは到底解し難い。また、本件処理場の設置及び管理運営が原告ら主張の法の各条に違反する点も見出し難い。
したがつて、原告らの右主張は、その目的とするところが違法とはいえないから、前提を欠き、失当である。
(二) 同(二)の主張について
請求原因3(二)(3)の事実は当事者間に争いがない。
原告らは、本件処理場は、法二四四条一項の公の施設に当たるから、法二四四条の二第一項により、その設置及び管理に関し条例を必要とする旨主張する。
ところで、原告らの被告坂本貞雄に対する損害賠償請求は、前示の、請求原因2(二)(1)、(2)の各契約の締結及びそれに伴う各公金の支出を不法行為に当たるとするものであるところ、右の契約の締結及び公金の支出は、本件処理場の設置のための用地の測量及び地質の調査並びに環境影響評価調査に関するものであつて、その設置の準備段階における初期の行為であることは明らかである(ちなみに、右各契約の締結は昭和五六年九月、それに伴う各公金の支出は同年一二月にされたものであるが、本件処理場の完成、設置は、当事者間に争いのない請求原因2(三)の事実によると、昭和五九年九月のことである。)。そうすると、仮に本件処理場が原告主張のとおり公の施設に当たるとしても、条例を必要とするのは、その設置及び管理に関してであるから、被告坂本貞雄が右の契約の締結及び公金の支出をした当時、本件処理場に関して条例がなかつたからといつて、そのことを理由に、右の契約の締結及び公金の支出が違法になるとは考えられない。
したがつて、原告の右主張は、本件処理場が法二四四条一項の公の施設に当たるかどうか判断するまでもなく、被告坂本貞雄の右各行為を違法とするものとしては、それ自体失当というほかはない。
(三) 同(三)、(四)の主張について
原告らは、本件処理場の設置及び管理に関し、じんかい処理場設置条例及び法九六条一項一号の違反を主張する。
しかし、右(二)のとおり、原告らの被告坂本貞雄に対する損害賠償請求は、本件処理場の設置の準備段階における各行為を不法行為に当たるとするものであるから、仮に本件処理場の設置及び管理が原告の右主張のとおり違法であるとしても、それにより、被告坂本貞雄の右各行為が当然に違法となるものではない。
したがつて、原告らの右主張は、被告坂本貞雄の右各行為を違法とするものとしては、それ自体失当である。
(四) 同(五)の主張について
武蔵野市及び三鷹市のじんかい処理が第一処理場の改修により十分可能であるかどうかは、武三保組合がその裁量により判断すべき事項であるから、武三保組合が第一処理場の改修では不充分であつて、本件処理場を設置する必要があるとした判断が違法になるというためには、その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くなど、その裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があつたと認められることを要するところ、本件全証拠によるも、右のごとき裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があつたことを認めるに足りない。
したがつて、原告の右主張は採用することができない。
(五) 右(一)ないし(四)のとおり、原告ら主張の事由は、いずれも原告らの被告坂本貞雄に対する損害賠償請求の原因となる請求原因2(二)(1)、(2)の各契約の締結及び各公金の支出を違法とする事由とはなりえないものである。
3 以上によれば、原告らの被告坂本貞雄に対する損害賠償請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。
四よつて、原告らの被告武三保組合管理者及び被告武蔵野市長に対する各訴えは、不適法であるからいずれもこれを却下し、原告らの被告坂本貞雄に対する請求は、理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官太田幸夫 裁判官塚本伊平)